ストーリー

松の上から謡が聞こえる

平成27年に北陸新幹線開業し、金沢を歩く観光客の多さに驚かされます。
子供時代に自転車で遊んだ「ひがし茶屋街」、今は観光客で毎日のように賑わっています。
思えば、二十歳の頃は、ひがし茶屋街も今よりずっと静かで、芸妓の太鼓や三味線、笛や鼓の音が遠くから聞こえてきました。

金沢は「松の上から謡が聞こえる」と言われ、植木職人でさえ謡をたしなむ土地柄です。
ひがし茶屋街では、さながら「屋根の上から鼓の音が聞こえる」とでも言うのでしょうか。

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世界の美しい駅14選

金沢駅は、日本で唯一「世界の美しい駅14選」に選ばれた金沢観光の定番の一つです。
この駅を飾る「鼓門」は、ひがし茶屋街で聞こえた鼓がモチーフになっています。

鼓門の威風を写真に収めようと、足を止めてシャッターを切る観光客の姿は、今では「いつもの光景」になっています。
「金沢での旅が、良い思い出になってくれれば」
「写真よりも、もっと『リアルな鼓門』を持ち帰ってもらおう!」
「のとひばこ」は、そんな想いから誕生しました。

切り絵の多層体

きっかけは、偶然TVで目にした街の模型でした。子供のおもちゃですが、その街にいるような気がして、しばらく見入ってしまいました。
それを見たとき、金沢駅にいるような感覚にさせられる「鼓門」を是非とも作りたいと思ったのです。

最初に立ちはだかった壁が「奥行き感」でした。金沢駅の奥行き感を表現するにはどうすればいいか…切り絵をヒントに試作品を作ってみましたが、結果は大失敗でした。
紙をいくら重ねても、鼓門の奥行きを表現するのには限界があったのです。
平面的な表現にどうしても納得ができず、またどこにでもあるような物で妥協する気持ちもありませんでした。

そこで考えたのが、立体表現に欠かせない影の存在です。
一層一層にカメオのように凹凸をつけ、影を持たせることで立体感を表現することを考えました。

木にレーザー彫刻で凹凸をつける?

私達の専門は木材加工。それなら、紙ではなく木材にレーザー彫刻する方が良いのでは?
さらには、県木の能登ヒバを使えないだろうか?
紙のような薄さでありながら割れない木材はどうやってできるのだろうか。

社長をはじめ、専務や営業担当が日本各地の木材業者に問い合わせ、能登ヒバで薄くて割れない板を作ってくれる業者を探しました。しかし特許の関係上なかなか作ってくれる業者は見つかりませんでした。

そんなある日、専務から「みつかったー!!」と連絡が。しかも、車でわずか10分のところにです。
早速伺ったところ、そんな面白いことを何でもっと早く相談してくれなかったのか、ぜひ協力したい!と言ってくださり、試作が開始されました。
能登ヒバはレーザー彫刻と相性が良く、なんとも良い感じの陰影を表現することができました。ようやく長いトンネルの出口らしきものが遠くに見えてきたように思えました。

何度も現地へ

試作を繰り返すこと約一年、紆余曲折しながらようやく能登ヒバシートが完成しました。
次は各レイヤーのデザインです。当初、本体が今より小型の設計だったため、一番奥の層はデザインが小さくなりすぎて、うまく加工できず、鼓門の奥行き感と迫力を表現できていませんでした。

そこで本体を大きくし、最も細かい加工が必要な一番奥の層からデザインを始め、その層が完成するとそれを片手に現地に向かいました。手前の層をどう作るかが奥行感と迫力の決め手だからです。何度、実物と見比べに足を運んだことでしょうか。

そしてある日、鼓門が小さな声で教えてくれました。「○○の部分を僅かにデフォルメさせればいいよ!」と。するとどうでしょう!鼓門が覆いかぶさってくるような迫力が表現できたのです。○○の部分は企業秘密なため、詳しくお伝えできませんが、苦労はしたものの結果的にデザインのコツが学べる良い経験となりました。
かくして、のとひばこ「金沢駅・鼓門」は完成することになりました。

のとひばこ完成

「物から事」へと

現在、金沢シリーズは5作品ですが、まだまだ増えていく予定です。関東エリアや関西エリアの作品もすでに販売中です。今後は「物から事」へとデザインを進化させ、日本全国の良き文化の発信を目指していきたいと思います。
これまで同様、皆様に応援していただける「のとひばこ」でありたいと社員一同、心より願っております。